SBCラジオ こんにちはドクター(平成29年4月9日放送分)に院長が出演した時の内容を転載します

SBCラジオ こんにちはドクター

『風邪・インフルエンザの漢方治療(平成29年4月9日放送分)』

Q 漢方薬とはどういったものでしょうか

A 漢方薬は古代中国大陸で産まれ、日本でも独自の発展を遂げた東洋医学の医薬品のことです。自然由来の生薬を組み合わせ、薬理効果を発揮します。漢方薬のもともとの形は主に煎じ薬ですが、現在ではより手軽に服用できるように加工された顆粒などのエキス剤を使うことが一般的です。医療機関での保険診療で医師が処方する他、一部のものはOTC医薬品として医師の処方箋がなくても薬局で購入することが可能です。

Q 漢方薬にはどういった特徴がありますか

A 西洋薬との違いは色々ありますが、私が敢えてひとつだけ漢方薬らしいと思う特徴をあげるなら「病名ではなく、その時の患者さんの状態に対して処方を選ぶ」というところです。病名に対して一対一対応で処方が決まるわけではないということです。例えば同じ「風邪」という病名でも、後で具体的に見るように、時期によって、あるいは患者さんの体質によって様々な「状態」があります。そのような「状態」に対して処方を選んでいくのが漢方らしいところと思います。こうした状態のことをごんべんに正しいと書いて「証」といい、「証」に沿って治療する東洋医学独特の治療法のことを「随証治療」と言います。

Q 風邪やインフルエンザの治療に漢方を使う意義はなんでしょうか

A 風邪やインフルエンザの治療には西洋薬が用いられることもありますよね。漢方薬についてお話する前に西洋薬の使われ方を考えてみたいと思います。まず風邪から考えてみましょう。風邪を引くのは風邪のウイルスが体に感染することが原因です。ところが原因となる風邪ウイルス自体を直接退治する薬は存在しません。風邪は体の免疫力が治すのですが西洋医学の風邪薬が出来ることはその間の不快な症状を抑えることだけです。咳を抑える鎮咳薬、痰を切れやすくする去痰薬、鼻汁を抑える抗ヒスタミン薬、熱を下げ、痛みを和らげる解熱鎮痛薬などが用いられます。西洋薬でいう総合感冒薬というのはこれらを組み合わせたものです。意外に思われるかも知れませんが、これらに風邪の治癒を早める効果はありません。それに対して漢方薬は体の治癒力を高めて治癒を早める働きをします。風邪を治すのは体の免疫力が主体という部分は西洋薬と変わりませんが、体が本来持つ治癒力を漢方薬がサポートすることで風邪が治るまでの時間を短縮することが可能です。風邪を早く治すということに関しては漢方薬の方が西洋薬に勝ることが多いです。

一方インフルエンザについては西洋薬もかなり重要な意義を持っています。というのも風邪の場合とは違ってインフルエンザに対してはウイルス自体の増殖を抑えこむ抗インフルエンザ薬が開発されていて、これは治癒までの時間も短縮します。一方の漢方薬はここでも体の治癒力を強力にサポートしインフルエンザを早く治癒に導きます。インフルエンザに関しては西洋薬と漢方薬のどちらにも治癒を早める効果があり、両者を上手に併用するとさらに効果的です。

Q それでは具体的に風邪への漢方薬の使い方を教えてください

A はい。さきほどお話したように、「風邪」や「インフルエンザ」という病名で処方が決まるわけではありません。処方を選ぶ前に必ず患者さんの状態、すなわち「証」を見極める必要があります。「証」によって使用する漢方薬の種類が変わるので「風邪」や「インフルエンザ」に対応する漢方薬にも沢山の種類があります。本日は時間が限られていますので、その中でも風邪やインフルエンザの初期に使用する漢方薬をいくつか紹介したいと思います。

風邪やインフルエンザでは「証」を見極めるときに体力の強弱と、時期の判断が特に重要です。例えば、虚弱な場合を除いた体力が普通かそれ以上の患者さんの風邪の初期にみられる典型的な症状をみてみましょう。この場合、体の表面のゾクゾクするような寒気から始まります。このとき体温は上がってきていますが、まだ汗はほとんどかいていません。うなじから背中にかけてのこわばりを伴うことが多いです。のどの痛みや咳はまだ目立ちません。脈を触るとしっかりしています。このような状態は典型的な葛根湯の「証」です。

Q 葛根湯は有名ですね

A たしかに葛根湯は最も知名度の高い漢方薬の一つですね。風邪の漢方と言えば葛根湯というように思われがちですが、どんな人のどんな状態の風邪にも葛根湯が有効なわけではありません。もともと体力が低下しすぎている方や胃腸が弱っている方には適しませんので除外してください。その上で風邪の初期の、寒気があるけどまだあまり汗をかいていない時期に内服するのが効果的な使い方です。このような風邪の初期に葛根湯を内服して上手に汗をかけば、風邪は一発で治癒しこじれません。

Q 上手に汗をかくとはどういうことでしょうか。

A 「発汗療法」のことです。風邪の初期に体の表面を温めて発汗すれば風邪は改善にむかい、逆に冷やすとこじれて長引きます。体を温めてわざと汗をかかせることを「発汗療法」といい、風邪の引き始めに有効です。薬を使わなくても実践可能ですが、葛根湯や後で述べる麻黄湯は体の表面を温める作用があり「発汗療法」を行いやすくします。いくら葛根湯を飲んでも、寒い風に当たって体を冷やしていたら効果は出ません。葛根湯や麻黄湯を飲むときは体を温めて汗をかくようにして漢方薬の効果を高めてください。具体的には厚着をして温かいものを食べて温かい布団にくるまって寝るなどしてください。

実は風邪の初期の悪寒がする時期の発熱に対して解熱薬を使ったり氷枕を使ったりして解熱させるのは却って風邪をこじらせ、治癒までの時間を延ばす原因になります。風邪のどんな時期にも解熱薬を使うのが間違いということではありませんが、少なくとも初期の寒気を伴う発熱の時期には解熱薬や氷枕は使わずにまず体を温めるようにつとめてください。

Q 身体の表面を温めて汗をかくことが風邪の初期には大切で、葛根湯はそれを助ける漢方薬ということですね。

A はい。「発汗療法」を上手く行えば一晩で風邪が治ることも稀ではありません。風邪やインフルエンザの治療では、初期の「発汗療法」を行えるかを判断することがまずは重要なポイントになります。「発汗療法」ができれば風邪は短期間で治しやすいからです。ただし念のため繰り返しますが、体力が低下しすぎている場合は発汗で却って消耗してしまう場合があるので行わない方が無難です。胃が弱っている場合も「葛根湯」や「麻黄湯」は控えた方がいいでしょう。そうした場合には他に適した漢方薬があるので、医師や薬剤師に相談すると良いでしょう。

Q 次にインフルエンザの初期にはどのような漢方薬を考えますか。

A インフルエンザの初期の場合も体力がある程度ある患者さんの場合から説明します。この場合の典型的な症状は、やはり寒気を伴う発熱ですが、それに関節痛や筋肉痛を伴いやすいところが特徴的です。脈は普段よりも力強く触れます。このような状態でまだ汗をほとんどかいていなければ「麻黄湯」という漢方薬を使用します。「麻黄湯」も「発汗療法」のための漢方薬なので、やはり厚着をするなど体を温める手段を併用してください。

Q 風邪の場合と似ていますね。

A 考え方は共通していますね。補足すると、最初に述べたように漢方薬は病名で処方を決めるわけではなく、体の状態、すなわち「証」で処方薬を選択します。したがって「インフルエンザ」という診断がつく前であっても、今述べたような状態であれば積極的に麻黄湯による発汗療法をおこなっても構いません。インフルエンザでなく、扁桃炎や風邪などのなかにも麻黄湯が適するケースは沢山あります。例えば小児の風邪の場合には「葛根湯」よりも「麻黄湯」が適するケースのほうが多いくらいです。

インフルエンザの初期では診断するための抗原検査の精度が不十分で、診断と治療が遅れがちです。特に発症初日ではインフルエンザが疑わしいのに検査で証明されず、抗インフルエンザ薬が使えないといったケースも珍しくありません。漢方薬ならばインフルエンザの診断が確定していなくても、証にあわせて治療が始められるため、初日の治療を無駄にすることはありません。例えば、麻黄湯が適する「証」と判断されれば、インフルエンザと確定していなくても麻黄湯をつかった発汗療法を行います。結果的にインフルエンザであってもなくても「証」の見極めが適切であれば「麻黄湯」は効果を発揮します。インフルエンザと診断がついた時点で西洋薬の抗インフルエンザ薬を併用するといいと思います。

Q  発汗療法が風邪やインフルエンザの初期に有効なことはわかりましたが、体力があまりない方には適さないのでしたね。

A その通りです。体力があまりない患者さんは発汗によって却って消耗してしまうので麻黄湯などを使った発汗療法は適しません。体力があまりない方のインフルエンザの典型的な症状は、寒気があるがあまり体温があがらず、手足は冷えていて、青白い顔をし、だるくてひたすら横になっている、という状態です。このとき医師が患者さんの脈を触ると、たいてい脈に力がありません。このような証では麻黄附子細辛湯などの漢方薬を使用します。

今日は時間の関係で説明できませんが、他にも「風邪」や「インフルエンザ」の色々な時期や状態に適した沢山の種類の漢方薬があります。「たかが風邪」とはいうものの風邪の経過は意外と複雑です。複雑な状況にきめ細かく対応し処方を選ぶことが風邪やインフルエンザの漢方治療のコツと言えるでしょう。

〒399-0033

長野県松本市笹賀5526-12

TEL (0263)28-3313

FAX (0263)27-5313